神鳥の卵 第23話 |
「第2回チキチキピザ作り勝負~!」 「却下」 ノリノリで司会進行しようとしたC.C.をバッサリ切り捨てたのはカレンだった。 その顔はうんざりと疲れ果てている。 「めー!」 カレンに同意を示したのはルルーシュ。「これ以上やるはずないだろうが!」と言っているらしい。 「お兄様、そんなに興奮されたら傷に響きます」 「ななりー!」 ふにふにのルルーシュのほっぺをなでるナナリーに、「ナナリー、なんて優しいんだ」と、感動しているようだった。ルルーシュはナナリーの名前だけはシスコンの力で発音ができるようになったようだが、ほかは全然だった。 ルルーシュの気持ちはわかる。 部屋の中に立ちこめる濃厚なチーズの匂い。 テーブルの上には、食べ残されたピザが数切れ。 うんざりしている、ロイドとセシル。 同じく、もうこれ以上はいい。といいたげな、カレンとスザク。 C.C.が第2回と言った通り、たった今まで第1回が行われ、その残骸がテーブルの上に残っている。完食したのはC.C.だけで、途中から皆胃もたれしてダウンしていた。 どうして、これをあれだけ食べて平気なんだ?胃がもたれた瞬間、不老不死の能力で胃が回復しているのでは?とルルーシュは考えていた。ちなみにルルーシュは2口ほど食べた。お腹を壊したら困ると、小さく切ったものを試食という形で食べていたが、それでも胸がいっぱいになる味だった。ナナリーも一切れで食べるのをやめていた。 スザクとカレンが作ったピザだ。できれば完食したいが、無理だろう。 見た目、匂い、味・・・チャレンジした意気込みは認めるが、どれもこれもひど・・・いや、残念な仕上がりだった。とはいえ、それでも頑張った方だろう。なにせこの二人は日本人。ブリタニアでの生活が長いこともあり、何を食べたいと聞かれれば、和食を選択する。そんな中で出された料理勝負。テーマはピザというだけで他に縛りはない。他は好きにしていいと言われれば、和風ピザがいいんじゃないか??と頭に浮かんでしまったのは仕方ない。二人共ネタがかぶったのも、まあ仕方のないことだ。 和風ピザなら、インパクトもあると踏んでいたのにと悔しがる二人は、各々が自信をもって用意した和の食材を取り出し、ピザ生地の上にのせ焼き始めた。 ・・・ここでみなは気づくべきだった。 ゼロスザクと、親衛隊隊長のカレンは毎日忙しく働いている。中一日ではアイディアを出し、材料を用意するのがせいぜいで、試作をする暇などないことを。 「うおおおおおお!」とか「とりゃあ!」とか、料理を作っているとは思えない声まで聞こえ、大丈夫なのか?喧嘩しているのでは?と、不安になりながら、キッチンから感じる不穏な空気に、ロイドは胃薬の用意を始めた。咲世子は、これは掃除が大変ですねと半ば諦め顔だ。 「かえー」 いくら考えても、まともに食べられるものが作れるとは思えない。だからルルーシュは咲世子に「カレーが食べたい」と言った。あの二人がこの部屋の在庫の食材を使い切ってしまっても、じゃがいもと人参は使い切れないだろう。お米もある。うどんでもいい。肉なしになるが、二人が作るものよりましだろう。ナナリーを空腹のまま帰す訳にはいかないという兄心だ。 「かしこまりました」 と、咲世子は請け負う。 それからしばらく後。 キッチンの扉が開いた瞬間に漂う生魚の匂い。ねばっとした納豆は焼いた後に乗せられる。かぼちゃのコロッケはぐちゃぐちゃに潰され、水切りされなかった絹ごし豆腐も散りばめられる。わかめなど水戻しさえされていない。塩辛のようなものや、たくあん。味噌の匂いも漂っている・・つまり、そういうモノが出来上がった。 普段ならそこそこ料理が作れるはずの二人がなんでこんなものを!?と、いう目を向ければ、二人共目をそらした。 敵対心にかられ、「スザクがあれを入れたなら私はこれを」「カレンがその手を使うなら僕はこれだ」と、追加に追加を重ねたらしい。 作り直す!と、二人は再びキッチンへ。 そしてまた、大騒ぎが聞こえ始めた。 それはルルーシュが止めるまで繰り返され、結果として、テーブルに大量のピザが用意される事になった。「食べ物は無駄にできない」とルルーシュが言えば、皆渋々口にし・・・大量のチーズで、ある程度ごまかされた、美味しいとは言えないピザを飲み物で流し込み、ようやく終りが近づいていたところだった。 これらのピザの大半を食べたC.C.が、まさか続きを要求するとは。 味覚がおかしいのか、ピザなら何でもいいのか。 何にせよ、作ったスザクとカレンでさえ、もうこれ以上は嫌だという顔で首を振っている。ロイドとセシルもうんざり顔だ。 「こんな不味いピザでは、勝敗などつくはずがないだろう」 だから、再戦だ。と、魔女の笑みを浮かべながら言う。 「・・・もういいよ」 「ええ、私の負でいいわ」 これ以上やるぐらいなら、負けたほうがいいと二人は白旗を上げた。 そんな中、キッチンの扉が開いた。 二人が料理を終えた後、咲世子が後片付けのため中に入っていたのだ。唯一、このゲテモノピザを口にしていない人物。みなは心底羨ましいと思った ・・・のだが。 彼女の手には皿があり、どう見てもそれはピザ。 皆の顔はピザ臭にうんざりしていたが、C.C.だけは嬉しそうだった。 「なんだ、気が利くじゃないか」 「いえ、こちらはルルーシュ様とナナリー様に。カレーを食べたいということでしたので」 キーマカレーのピザを作りましたと二人の前にそれぞれお皿を置いた。サイズは1人用のピザ。ルルーシュはそれより小さく、餃子の皮ぐらいのサイズだった。 美味しそうなカレーの匂い。パプリカとミニトマトで彩りもいい。 これはピザと言うより、ナンの上にカレーを乗せているようにも見える。 いままでピザの匂いにやられていたはずの二人は、一瞬顔を見合わせた。ルルーシュの分はよく見ると小さく切り取られており、やけどしないように冷ましてあるらしく、気持ち程度にのせられたチーズが若干固まっていた。 「ふーっふーっ、お兄様、あーん」 ナナリーは念のため息を吹きかけ、さらに冷ましてからルルーシュの口に入れた。ぱくっもぐもぐと、ルルーシュは美味しそうに口にする。刺激のあるものを食べて口の中は大丈夫か心配だったが、美味しそうに咀嚼しているので大丈夫だろう。 ナナリーも自分の分を一口食べた。こちらもチーズは気持ち程度。カレーが薄く塗られたナン・・・ピザ生地はサクッとしていて、とても美味しい。 「ルルーシュ様のものは、香り付け程度に甘口のカレーを入れております」 「とっても美味しいです。ね、お兄様」 食べ物が美味しいというより、ナナリーの笑顔が嬉しいのだろう。ルルーシュは頬を染め、それはそれは幸せそうな天使の笑みを浮かべた。それを見たナナリーの笑みはますます深くなり、幸せそうな二人を見る周りの笑みも自ずと深くなる。 「しゃーこ」 凛々しい表情でルルーシュは咲世子を呼び、ウンウンと頷いた。「さすが咲世子だ。よくやった」とご満悦。といっても、やはりチーズ臭で胸いっぱいになっていたので、ふたりとも残してしまったが、気づけばすべてのピザはC.C.の腹に収まり、テーブルの上はきれいになっていた。 「決まりだな。優勝は咲世子だ」 そりゃそうでしょうね。一体何のための勝負だったんだ?と全員脱力しながらも、第2回を回避するために満場一致で同意した。 **** ※ルルーシュは離乳食中だけどすでに歯は生えています(ご都合主義) |